電車の中づり広告をながめていて、必ずといっていいほど出くわすことばに
「脚やせ」「アゴやせ」
などがあります。このような、からだの一部を取り上げてその部分を集中的にやせさせるという方法を、俗に
「部分やせ」
と呼んでいるようです。
この部分やせについては、「できる」「できない」の両論がありますが、本当のところは果たしてどうなのでしょうか。
結論から言えば、不可能ではありません。例えば、下記に紹介するような方法です。
<<外科手術療法>>
現在では主に「吸引術」が用いられるようです(注1)。これは、やせたい部分の皮膚に穴をあけて、からだの内部にチューブを通し、そこから特殊な掃除機で周囲の脂肪細胞を根こそぎ吸い取ってしまうというものです。
いったん取ってしまった脂肪細胞はもとどおりに再生することがないようで、術後、その部分に対しては以前のように脂肪がたまることはないといわれます。
この方法は簡単そうにみえますが、基本的にかなりハードな手法であることを知っておくべきでしょう。脂肪細胞は多数の「毛細血管」や「神経」に取り囲まれているのですが、この手術ではこれらの組織をも無造作に引きちぎることになります。この手術については、ここ数年に発生した死亡事故がマスコミにとり上げられたことで、ご存じのかたも多いと思います。
最近は、超音波を利用しながら、時間をかけて行う吸引法なども開発されているようです。
これに関しては、(脂肪細胞を除去した部分については)リバウンドもない、本当の意味での部分やせということができると思います。
<<その他>>
1) 薬物の注入
それは、やせたい部分の脂肪細胞に薬物を注入し、脂肪細胞の活性を抑制するというものです。動物実験では薬物を注入した部分の脂肪細胞が縮小するという効果が確認されており、人間においても同様の効果をあげる可能性があるとされています。
2) 超音波の利用
脂肪の燃焼を促進したい部分に、500キロヘルツ程度の超音波を当てると、その部分の脂肪細胞においてノルエピネフリン(ノルアドレナリン)というホルモンの分泌量が上昇し、脂肪細胞の燃焼が促進される、というものです。
女性誌などで紹介されている部分やせの方法というのは、ほとんどの場合1.であげた医学的な方法とは趣向が異なっています。
「脚や腹を揉む(脂肪揉みだし) 」「脚や腹にラップを巻く」「やせる石鹸」「腹筋運動」といったものが有名ですが、多くの場合科学的考証が欠けています。
<<脂肪揉みだし>>
ネーミングからすると、おなかや脚の周囲の脂肪細胞を強くもんで(つぶして)、細胞の中から脂肪を絞り出してしまおうという発想なのでしょうか。
しかし、人間の脂肪細胞は「絞り出し袋」ではありません。脂肪細胞の中身を絞り出すためには、脂肪細胞をそれこそつぶすしかないのですが、脂肪もみだしのような技術でそんなことが起こるとは考えられません。もし細胞がつぶれるほどの強い刺激があれば、その周辺はひどい炎症を起こしてそれこそ大変なことになるでしょう。
それに、この方法は絞ったあとのことを全く考えていないようです。絞った脂肪はどこにいくといいたいのでしょうか。
本当は脂肪は外的な力で絞り出されるのではなく、必要に応じて脂肪細胞から周囲の毛細血管に取り出されるのですが、相応の脂肪を取り出して燃焼するためには、それだけの運動量(エネルギー発生)が必要になります(脂肪細胞におさまりきれなくなり、「たれ流し」というようなことは起こるようですが)。
以前、脂肪揉みだし関係の機器を扱っている業者に話を聞いたことがありますが、
「揉むことによって、その周囲の 代謝(注2)が上がって、エネルギー消費量が増え、その時に脂肪が使われる。」
と説明していました。しかし、たった10gの体脂肪が燃焼するのに70kcalもの熱量を必要とします。70kcalという熱量は1kgの水を70度も上昇させるエネルギー量です。
確かに、部分的な温度の上昇、ノルエピネフリンの分泌量の増加などにより、ターゲットとなった脂肪細胞の脂肪分解量は増える可能性があります。ただ、分解されたあとの脂肪酸がエネルギーとして使われるならいいのですが、上記のように増加する消費量はごくわずか。再び合成されて取り込まれてしまえば減ったことにはなりません。
ただ、低インシュリンダイエットの提唱者である永田先生は、これらの点に着目し、分解されたあとの脂肪酸を直後の運動により使ってしまうプログラムを考案されているようです。ただし、運動によって使ってしまっても、その後補給したエネルギー量が過剰であれば、再び脂肪細胞に蓄積されてしまうので、意味がありません。全体的なエネルギー管理についての考慮も忘れてはならないと思います。
また、脂肪をためる「白色脂肪細胞」自身そのものも、エネルギー消費が得意である「褐色脂肪細胞(人間の成人におけるその活性については、意見が分かれます)」同様、脂肪を分解・燃焼する働きを持っているようです。ただ、もむことによってその役割が劇的に高められるわけでもありません。
もちろん、脂肪細胞以外の組織についても、多少はエネルギー消費量が増えることが考えられます。しかし、これらの組織はそのときに血液中にある遊離脂肪酸などを利用するわけで、その周辺の脂肪細胞から直接引っ張ってくる、というものではありません。
以上のことから、脂肪揉みだしというのは、実際に脂肪細胞から脂肪をひねり出す、というようなものではなく、効果的な部分やせと結びつけることには無理があるということが理解できるでしょう。
このように結論づけてしまうと、
「理論は問題じゃないの。実際減るのよ」
という術者の声が聞こえてきそうです。たしかに、この術をかけた直後は「その部分のサイズが減る」ということがよくみられます。これは一時的に体水分と体脂肪の部分が分離した状態になることで起こるようです。ですから、少し時間がたてばもとに戻ってしまうわけです。
また、このような術を行うほとんどの場合、運動療法や厳しい食餌療法をあわせて行っていることを理解してください。一見、脂肪揉みだしが功を奏したように見えて、実は運動療法と食餌療法が効いているということも考えられます。
<<やせたい部分にラップを巻く>>
この方法はラップを巻いたところを集中的に発汗させ、やせさせようというものです。
「脂肪が落ちること」と「発汗すること」は全く別のメカニズムなのですが、この考え方は両メカニズムを全く混同してしまっています。
脂肪揉みだしと同じで、「全くその部分の代謝が上がらない」とはいえませんが、それによって使うエネルギーはごくごくわずか。脂肪揉みだしと同じです。
直後にサイズが減るのは、その部分の発汗が進んだからにすぎず、水分が補給されたあと、すぐに戻ってしまいます。
ついでに、ボクサーの減量のイメージからか、サウナ スーツを着用して運動する方々を見かけることがありますが、ボクシングについては厳しい体重制の敷かれたスポーツで、少しでも瞬間的な体重を軽くするために行うもの。特に後期の水分抜きはその特徴的なもので、一般の人に適用できるものではありません。
脂肪の燃焼が促進されるどころか、熱射病による死亡事故を促進することにつながります(注3)。これは大げさでも何でもありません。
ただ、このような部分的に刺激を与えるアプローチをものすごく長期間続け、その間余計なエネルギーをとらないような節制を続ければ、多少の効果が見られるかもしれません。もちろん、私たちのからだは、特に運動をしなければ加齢とともにそのエネルギー消費量が減少していきますので、部分的な刺激を与えるアプローチだけで、「部分やせ」を達成するのは難しいですね。
<<やせる石鹸>>
ちょっと古い話題になってしまいますが、バブリーなインチキ商品の代表的なものですから、紹介しておきます。
皮膚の上から石鹸で洗うことによって、その石鹸の成分が皮膚を通り超えて脂肪細胞に作用し、脂肪細胞を破壊してそこから余計な脂肪を溶かしだして皮膚の外に出す。これを続けることでやせる。石鹸業者のいいたいところはまあこんなものだったのでしょう。
これも脂肪揉みだしやラップ巻きと同じで、脂肪細胞と皮膚の構造を全く無視した全く奇想天外な原理です。しかし、これも一頃は何千円もしていたのに、今はそれこそ100円単位で売られている上、誰も見向きもしなくなってしまいました。
衝撃的な効果をうたった、しかもいかにもウソくさい商品は石鹸だけでなく、いろいろありましたね。
今後も同じように怪しい商品は絶えることなく出ては消え、出ては消えを繰り返していくと思います。かつて、衝撃的な効果をうたったやせ薬、器具のたぐいが、減量法のスタンダードになったことがあったでしょうか? 消費者側が知識を持って、「だまされない」よう構えていれば、インチキ商品の撃退くらいわけのないものです。
ただし、必ずしも部分やせを連想するものではなくても、皮膚の上から内部の組織に薬効を浸透させるものもありますよね。こういったもので、その部位の脂肪組織に対するノルエピネフリンの分泌を増加させるようなものがあれば、一時的に脂肪の分解を促進する可能性があります。しかし、分解された脂肪酸を「エネルギーとして使わなければ」意味がないことは、ここまで何度も述べてきましたね。
<<腹筋運動>>
部分やせの概念としては、古くからあり、結構浸透しているのではないでしょうか?
しかし、これであっても一般的に考えられているような「部分やせ」とは意味合いが異なります。これは運動指導の専門家であっても誤解している人がいます。
「腹の脂肪を落とすために、腹筋をたくさんしましょう」
という指導はごく一般的に行われているように感じます。
この誤解の根底には、「使う筋肉」と「その周辺の脂肪細胞」が何らかの形で直結していて、脂肪というエネルギー源を直にやり取りしているというイメージがあるのでしょう。
しかし、現実的にはそのようなことがなく、筋肉を取り巻く毛細血管に届く脂肪は、からだの各部の脂肪細胞から取り出されたもの(遊離脂肪酸)、食事から吸収されたもの(カイロミクロン)、あるいは肝臓で合成されたもの(VLDL)です。肝臓で合成されたものは、エネルギーというより、組織の材料となります。
筋肉は毛細血管中を流れる脂肪を「リポ蛋白リパーゼ」という酵素を使って分解しながら筋肉に取り込み、エネルギー源として使えるようにします。
ただし、脂肪をエネルギー源として利用するためには、最低5分以上継続できる運動を選ぶ必要があるといわれます。なぜなら、運動開始当初の数分間は脂肪がエネルギー源としてあまり利用されないからです。本格的に脂肪を使おうと思ったら、その運動を10分、20分という単位で継続していかなければなりません。腹筋運動は、このようなタイプの全身持久力運動として、そんなに向いているとは私には考えにくいのですが…。
もちろん、部分的な運動により、その筋肉だけでなく、その周囲の脂肪組織の活性も高まり、脂肪の分解が促進される可能性はあります。ただ、ある程度の強い刺激となる運動が必要になるでしょうし、何グラムもの脂肪を落とすのであれば、かなりの回数や期間が必要になるでしょう。ただ、そのころには、他の部分の脂肪もおそらく相応に落ちているのではないかと思いますが…。
結果的に、減量を行う際にはどの場所の運動を行ったかにはあまり関係なく、その人によって落ち易い場所からサイズが落ちていく、ということになるようです(注4)。
ここまで、実際に確立された物理的な方法や、研究機関が発表した方法などを除き、部分やせ(部分的に脂肪を落とす)に対する一般的な誤解を否定する立場を取ってきました。しかし、次のような結果が出たこともあります。
以前私は、多人数参加のイベントとして減量プログラムを2年にわたって実施したことがあります。このとき、1年目と2年目でトレーニング法を全く変えてみました。
1年目は「腹筋運動を3種目程度採用」し、2年目は「腹筋運動を1種目だけ採用」するという方法をとりました。のちに個別指導で減量プログラムを行うことを私自身が計画していたから、いろいろな実験をしてみたかったのです。
スタートから3ヶ月後の結果でウエストのサイズを比較したときには、両者に明らかな差が生じました。つまり、後者のグループのサイズを減らした最高記録は前者のグループの平均値にも満たない、というものでした。
この2年に渡る時期は同じでも年度が異なりましたし、いろいろな年齢層が含まれていました。さらに人数はそれぞれ30~40人程度ずつということでデータが少ないこともありますので断定的なコメントは控えさせていただきます。
とりあえず、上記の傾向をみれば、部分運動を行うことでその部分のサイズに影響を与える可能性はありそうです。経験的にも、それを体験しておられるかたは多いのではないでしょうか? しかし、これは「部分やせ=部分的に脂肪を落とす」という意味とは必ずしもいえないでしょう。
部分運動でその部分の脂肪が優先的に使われるのではないとすれば、どうしてこんなことが起こるのでしょうか。
その原因はいろいろと推理することができますが、私は体幹部の筋肉がトレーニングによって、重力や腹圧に対抗できるほど強化された結果だと考えています。
もちろん、他の部分の脂肪も減って、全体的にサイズが減少していましたので、それなりに脂肪も落ちていることが考えられ、その相乗効果によるものだったのでしょう。
部分的・選択的な「脂肪の除去」とまではいわなくても、引き締め効果によってサイズを減らすことは不可能ではなさそうです。
この2年間の実験的なプログラムではほかにも部分的な運動と、サイズの変化についておもしろい傾向がみられたのですが、機会があればご紹介したいと思います。
部分やせについてまとめると、
「ある部分をマッサージしたり、運動させたりしても、その時に発生するエネルギーをまかなうのは(活性化した脂肪細胞そのものエネルギー消費という観点を除き)、その部分の皮下脂肪ではない」
ということになります。
このような事実を受けて、多くの識者は次のようにいいます。
「部分運動には脂肪を落とす効果はない。減量をしたければ、 ウエイト トレーニング(注5)のような重量運動は意味がないということになる。ところが、10分、20分と続けて行えるランニング、ジョギング、スイミングなどの 有酸素運動では、脂肪をエネルギー源として使うことができる。また、レジスタンス トレーニング(筋肉に抵抗を与え、主に筋力を鍛えるトレーニング)のように血圧を上げることもない。有疾患者・減量を目的とするものは有酸素運動(注6)を行うべきだ」
と。
このような意見は、運動の全体像を知らない(有酸素運動しか研究していない)日本の識者に多いように思います。そのような方々のお話を伺うと多くの場合、「40年前」の レジスタンス トレーニング理論(注7)と 1960年代後半のケネス クーパー氏のエアロビクス理論(注8)の比較を聞かされます。
ですが、欧米のトレーニング事情は、1950年代の筋トレ理論と、1969年のエアロビクス理論で止まっているわけではありません。すでにエアロビクス理論の提唱者でおられるケネス クーパー博士も、レジスタンス トレーニング(筋肉に抵抗を与える運動)の重要性を認識されておられます。
レジスタンス トレーニングについても40年前の有名な実験DATAに踊らされ続けるような愚を犯してはならないと私は思います。欧米では10年以上も前からレジスタンス トレーニングが減量指導に積極的に使われています。
レジスタンス トレーニングを行えば、個人差がありますが、 筋線維(注9)が太くなる傾向にあります。つまり、全体的に筋肉のカサが増えるわけで、その分全体的な代謝量が増えることになります。つまり、増えた分は余計に脂肪を燃焼させることができるわけです。
人間のからだは、生命を保つための、あるいは活動エネルギーとして、 脂肪、炭水化物、タンパク質などを同時に燃焼させています。この3者のうち、脂肪を使う割合でいえば、「安静時」が最も高い(注10)のです。また、1日の中で、安静にしている時間が一番長いのではないでしょうか。
たしかに、「運動中に脂肪を使うことはできない」という観点からは日本の多くの識者の意見は正しいですが、一面的な見方であることがわかります(また、全く使われないわけではありません)。レジスタンス トレーニングの効果は、安静時にも波及するということです。この観点からは、レジスタンス トレーニングにも減量効果はある、といえます。くわしくは別項を設けましたのでそちらをご参照ください。
この理論で「ダンベル体操」が社会的地位を確立してきました。有酸素運動一辺倒の運動療法にこの運動が与えた功績は大きいと思います。ただし、一部で言われているように、 フォームと頻度については、使い過ぎ症候群(注11)を防ぐためにももう少し検討が必要ではないかと思います。
さらに、「ダンベル体操」においては、最近では理論の方向転換があり、白筋と赤筋といういいかたをよく行うようになりました。白筋とか赤筋という呼びかたは本来正しい呼びかたではないのですが、遺伝的にその(数の)割合が決定されている筋肉の線維に対して、
「『赤筋』はスリムな体型をつくり、『白筋』は脂肪体型をつくる」
というようなひどい記述を見かけるようになりました。これはある意味差別です。また、必ずしも事実ではありません。
短距離系、瞬発力を要する競技の一流選手の筋線維の組成は、速筋線維(白筋?)が圧倒的に多いことがわかっています。あなたは「脂肪体型のスプリンター」を見たことがありますか? 砲丸投げですばらしい活躍をされている室伏選手はどうでしょう?
(注1) 戻る
私は以前資料映像で手術風景を見たことがありますが、正直非常に荒っぽい手術に思えました。
その手術を受けた若い女の子によると、
「おなかの部分が固くなってしまったように思える」
ということでした。外見的にも、おなかの筋肉の上に直接、皮膚が乗っているような感じに見えました。
脂肪細胞は余分なエネルギーを蓄えておくだけでなく、その部位を保護するという目的もあります。このような脂肪細胞を、医療以外の目的で安易に吸引してしまうことについては、私は大いに疑問を持ちます。 もちろん、このような手術がコンプレックスを解消することになれば、それは大いに価値があると思います。しっかりと方法を知って、よく考えた上で決めるべきだと思います。
最近起こった死亡事故は細菌感染が原因のようですが、脂肪吸引とはいえ外科手術には変わりがないのですから。
(注2) 戻る
代謝というのは、からだの組織の営みで、同化(筋肉の合成、脂肪の合成など)と異化(筋肉の分解、老廃物の排泄、エネルギーの分解など)の合わせていいます。ここでいう代謝の上昇とは主に異化であると考えていいでしょう。
(注3) 戻る
発汗は皮膚の表面で蒸発させることによって熱を奪う、という方法で体温を調節しています。サウナ スーツなどを着て運動を行うと、汗が乾かず、体温を思うように下げられなくなって熱射病を起こす可能性があります。あるいは水分や塩分が急激に失われることによって「熱疲労」や「熱ケイレン」を起こすこともあります。
また、減量効果についても、サウナスーツを着ることで効率を落としてしまう可能性が高くなります。ある程度以上に体温が上がると筋肉などの働きが悪くなり、思うように運動を行えないようになるからです。結果的に運動強度(運動の強さ)が低下し、逆に消費エネルギーを減らしてしまうことになるでしょうね。
サウナ スーツは寒い時などにからだを守る、ウォーム アップをスムースにするという目的以外では使うべきではありません。
(注4) 戻る
まだ、十分な量のデータが集まっているわけではないのですが、 私が所属していたクラブ(世田谷区のDIVAスポーツクラブ)で取ったSlim-fit(R)という減量プログラムの結果を見ると、性別によっても年齢によっても、あるいは服用している薬によっても脂肪が落ち易い部分は異なるという結果が出ています。
男性は全般的にウエストが落ちやすいですが、これは内臓脂肪による部分が大きいかもしれません(機会があれば詳しく説明します)。女性の場合は全年齢を通して胸囲のサイズが落ちやすいようです(乳房のほとんどは脂肪ですので)。
「乳房については、一般の体脂肪組織とは全く異なるので、体重を落としたからといって小さくなることはない」
とする研究者もいますが、私は明確に減ることを確認しています。
皮下脂肪については、温度の高い場所から優先的に脂肪が落ちていくことになるようです。身体各部の温度の高低は遺伝的に決定されているとのことですが、後天的な努力で(例えば腹筋運動などで)その部分の温度を常に高く保つように工夫した場合などはどうなるのでしょうか。今後の研究を待ちたいところです。
(注5) 戻る
一般的にはバーベルやダンベル、あるいはトレーニング マシンなどの器具を使った運動を指します。
(注6) 戻る
長時間継続して行えるタイプの運動です。酸素を体内に取り込みながら、炭水化物、脂肪、タンパク質を分解してエネルギーを発生させながら行う運動であることから、「有」酸素運動という呼ばれ方をします。
それに対して短時間で終わってしまう、短距離走やレジスタンス エクササイズ(ウエイト トレーニング、筋トレ)では、酸素を使ってエネルギー源を分解している暇がありません。これらの運動は、酸素がない状態でクレアチン燐酸という燐原質(フォスファゲン)や炭水化物を分解してエネルギーを発生させるので、「無」酸素運動という呼び方をします。 ただ、最近は「有酸素」「無酸素」といういい方が適切かどうかについて、改めて見直そうという意見もありますね。有酸素運動は、必ずしも酸素による完全なエネルギーの分解メカニズムだけで行われるわけではないのですから。
(注7) 戻る
1953年にヘティンガーとミューラーという学者が発表したこのDATAは、「アイソメトリックス」という、「動かないものを無理やり動かそうとするような、止まった状態で行う運動」のDATAです。例えば、胸の前で両手を強く押し合わせて10秒力を入れつづける、というような運動がこれにあたります。
これを行えばたしかに血圧が急上昇しますので、老齢の方、高血圧の方には危険ですね。
しかし、今はマシンやバーベル、ダンベルを使った、動きの伴う「アイソトニックス」が主流です。わざわざスポーツ クラブに来てアイソメトリックスをしているような会員の方を、この10年間私は見たことがありません。
また、実際にフィットネス クラブで指導されるような機会も少なくなっていると思われます。 手軽なので、自宅エクササイズなどではよく利用されるんですが。
アイソトニックスで、軽く感じる重量でウエイト トレーニングを行う分には心配するほど血圧は上昇しないと考えられます。
DATAは少ないですが、私どものクラブでは、20~30代の健常者では、最大筋力の70%以上でトレーニングを行っても、最高血圧200、最低血圧100を超える人はいませんでした。この程度の運動が好ましくないのであれば、一時的にはさらに血圧が上昇するといわれる排便すら禁止しなければならなくなるのではないでしょうか?
(注8) 戻る
世界の有酸素運動のプログラムに付随する理論はすべてここから始まっているといっても過言ではない、超スタンダード理論です。
原著「Aerobics」では手放しに有酸素運動を褒めたたえ、無酸素運動を徹底的にこきおろしていますが、最近では有酸素運動に付随する問題も指摘されるようになっています。
たとえば数年前「運動はからだに悪い」という本が話題になり、私ども運動指導者も困惑しましたが、からだの中で悪さをする活性酸素の影響を考えると、エアロビクスを手放しで礼賛することはできなくなったのです。
また、エアロビクスは長時間一定の刺激をからだの特定の部分にかけるというシチュエーションが多いため、各種外科的障害を起こしやすい、という問題もいわれるようになっています。
また、血圧の話になりますが、私は有酸素能力(全身のスタミナの指標)を測定する実験で、まだその人の推定される最高の脈拍である「推定最大心拍数」の60%程度で運動しているにすぎないのに、20代の若者が何名も最高血圧200以上、最低血圧100以上を出しているのを見かけました。血圧という面からも決して有酸素運動が無酸素運動に対して圧倒的に安全であるとはいえないといえる実例だと思います。
単純に、無酸素だから危険、有酸素だから安全、という認識は通用しないようです。
(注9) 戻る
筋肉を構成する細胞のことで、筋細胞ともいわれます。これが多数集まって一本の筋肉を構成しているわけです。通常の細胞とは異なり、「核」を多数持つという特徴があります。
筋肉は、大きくわけて心筋(心臓の構成筋)、内臓筋(内臓・血管の構成筋)、骨格筋(骨に付いていてからだを動かす役割をする筋、俗にいう「キンニク」)に分けられますが、骨格筋はさらに、収縮スピードの早い「速筋」と「遅筋」に分けることができます。
有酸素運動は主に遅筋を鍛え、無酸素運動は主に速筋を鍛えるといわれます。
最近注目されるのは、老齢とともに衰えやすいのは、速筋のほうだ、という事実です(ただ、現在までの実験結果については、多少の誤認がある可能性があるため、補正して考える必要があるようです)。だから高齢者は次第に速い動きができなくなり、事故に巻き込まれやすくなったり、ついには立てなくなって寝たきりになったりしてしまうのでしょう。日本ではかなり遅れていますが、ようやく無酸素運動の見直しが始まってきているようですね。
また、無酸素運動の中でもウエイト トレーニングは筋線維を強くするだけでなく、骨格を固くする、あるいは密度を高める効果もあることを示すデータがいくつか出揃ってきています。
例えば、アリゾナ大学のハインリヒ博士が閉経前の17-38歳の女性の骨量について調査したところでは、明らかにボディビルダーの骨量が秀でていることを示しています。
対象となった女性は、趣味としてスポーツを楽しんでいる方々(ボディビルダー11名、ランナー16名、スイマー13名、計40名)と、運動を行っていない女性18名でした。結果は以下の通りです。
(注10) 戻る
安静時に、脂肪細胞からリリースされた脂肪(FFA)がエネルギー源として使われる割合は90~95%といわれます。
それに対して、ウエイト トレーニングのような、短時間で終わってしまう運動では、脂肪はほとんど使われないようです。このようなことが、日本の識者の「ウエイト トレーニングは減量に役立たない」という理論につながっているようです。
多くの場合、タンパク質は飢餓などの状況でしか燃焼されない、という定説があるので、トレーニング理論でエネルギー源の使用比率を説明する場合には無視されることが多いようです。しかし、強度の高い運動を行う時、全エネルギーの15%以上をタンパク質がまかなう、というデータがないわけでもありません。
(注11) 戻る
1つの運動を行いすぎることにより、からだに障害を起こすものです。私どものクラブでは、ダンベル ブームに乗って見よう見まねで行っていたために手首や肩などに障害を起こしたケースがいくつかありました。ダンベルは左右が独立していて動作が難しいため、安定を欠きやすいという弱点があることも知らなければなりません。
また、一般的に鉄アレイと呼ばれる器具は、ウエイト部分が回転しないため、手首にかかる負担が大きいことも理解しておくべきでしょう。
いろいろな意見はあると思いますが、私はもっとフォームをしっかり作ることを指導し、無理のない頻度を考える必要があると思います。