レジスタンス エクササイズ resistance exercise とは、
筋(肉)に一定以上の強さの抵抗(レジスタンス)を与える運動
のことをいいます。どんなエクササイズでも、筋肉に抵抗をかけることができますが、ここでいう抵抗とは基本的に、
「運動中に酸素を使わずにエネルギー源を分解するレベル」
の抵抗だと考える必要があります。
運動中に酸素を使ってエネルギーを分解し、持続的に行うことができるエアロビック エクササイズ(有酸素運動)と対比してみるとわかりやすいでしょう。
有酸素運動では、運動そのものの抵抗があまり大きくありません。ですから、
「呼吸による酸素の調達」
を余裕をもって行いながら、食物エネルギー(栄養素)を水と二酸化炭素に分解し、長時間運動を続けることができます。陸上競技でいえば、中長距離走が有酸素運動にあたることになります。
それに対してレジスタンス エクササイズのような運動は、その抵抗がより大きくなるため、
「酸素の供給」
が間に合いません。その結果として、食物エネルギー(栄養素)である炭水化物を燃焼するとき、疲労物質の乳酸を生成するのです。この疲労物質は運動の継続を阻害するため、有酸素運動のように長く続けることはできません。陸上競技の短距離走がまさしくこの運動にあたります。
このように、酸素を使わずにエネルギー源を分解するような運動のことを、アネロビック エクササイズ(無酸素運動)と呼びます。
レジスタンス エクササイズの抵抗とは、このように、鍛える筋肉が無酸素状態で動かされるようなレベルの強さでなくてはならないことになります。具体的にいうなら、エアロビック エクササイズとは異なり、
「どんなに長く続けようとしても1分以上継続することが難しい」
ような運動の繰り返しですね。
このレジスタンス エクササイズは、基本的に「筋力(筋肉のチカラ)」を高め、「筋肥大(筋サイズの発達)」を促進する目的で行われます。しかし、方法によっては、より長く筋肉の収縮を繰り返す能力である「筋持久力」を高めることができます。あるいは、有酸素運動とは違ったアプローチで「全身持久力」を高めるプログラムも持っています。
レジスタンス エクササイズを究極的に行う種目としてボディビルディング(写真)やパワーリフティングなどがあげられます。
さて、上記のような、アネロビックな状態(無酸素状態)で筋肉を鍛えるような運動プログラムをひもといてみると、レジスタンス エクササイズという言葉以外にも、ウエイト トレーニングとか、筋力トレーニングなど、似たようなコンセプト、もしくは広い意味でレジスタンス エクササイズに含まれるような名前も多く存在します。
ここでは、各エクササイズの位置づけを理解するために、いくつかの類似する名称を私なりに分類してみました。
これはかなり以前から一般的だった呼びかたです。筋肉に一定以上の強さの抵抗(resistance)を与えるエクササイズを意味しています。必要な抵抗については、すでに解説しました。
主にバーベルやダンベル、あるいはマシンなど、ウエイト(重量物)を抵抗として利用するトレーニングを指します。
身体の筋をウエイトに適応させることで、筋力の向上、筋肥大、筋持久力の向上などを狙ったものです。
しかし、スポーツの世界では、目的となる体力要素にとってトレーニングの本質が変わってしまうため、ウエイト トレーニングという曖昧な名称ではなく、以下に述べるような目的別の呼び名が使われるようになってきています。
ストレングスとは筋力、つまり筋肉が発揮できるチカラのこと。つまり、ストレングス トレーニング(筋力トレーニング)とは、筋力を高める目的で行われるトレーニングを指した言葉になります。 スポーツの補強(supplemental exercise)の方法としてよく使われる概念ですね。最近は各種メディアでも「筋トレ」と略して呼ばれることが多くなってきているように思います。
パワーとは基本的にスピードと筋力を掛け合わせた概念です。このトレーニングの目的は、そのパワーを高めてスポーツなどのパフォーマンスを上げることを目的とするトレーニングといえます。
一定以上の筋力を発揮する運動を繰り返す能力を高めるためのトレーニングです。
スピードを高め、スポーツのパフォーマンスを高めるためのトレーニングです。
ここではレジスタンス エクササイズ プログラムを作成するためにに必要な基礎知識を解説します。
トレーニングを行うと、ヒトのからだは与えられた負荷に適応していきます。この「適応 adaptation 」とは私たちのからだが周囲環境に合わせていく能力をしめしています。
トレーニングを開始すると、最初は重く感じた5kgのダンベルが、使っていくうちに軽く感じられるようになるのもこの適応の結果です。
つまり、トレーニングというのは、運動負荷に対してからだを適応させることであるといいかえることができるでしょう。
レジスタンス エクササイズの場合であれば、
「より強い抵抗を筋肉に与えて、その筋肉を外的に加えられた抵抗に対して適応させること」
であるといえます。
「筋力(筋肉のチカラ)を高めるためには、通常受けている刺激以上に強い負荷(過負荷)を与える必要がある」という原則です。
現代人の日常生活では最大筋力(筋力の最大値)の30%程度しか使わないといわれます。例えばそのような人がトレーニングを行う場合は、最大筋力の30%より大きい負荷を使えば筋力を増すことができるわけです。
「トレーニング プログラムの進行に従い、徐々に負荷を上げていかなければならない」という原則です。
なぜなら、筋は過負荷を与えられると次第に適応しまうからです。当初は「過負荷」であったはずの重さも適応の結果(トレーニング効果)、軽くなりすぎてしまうのです。
この原則と(1)過負荷の原則を合わせて「漸進性過負荷の原則」という呼び方をすることが多いようです。
「トレーニングは継続する必要がある」という原則です。
トレーニング効果は、それを継続する努力をやめた瞬間から急速に失われはじめます。このことを「トレーニング効果は可逆性がある」と表現しますが、これも一つの適応現象なのです。
「トレーニング効果を高めるためには目的意識が必要である」という原則です。特に運動中、その筋肉への意識の持ちかたでその効果に著しい差があらわれます。
「トレーニング効果には特異性がある」という原則です。
例えば腕のトレーニングというのは腕の筋肉のトレーニングに特化されたものであって、脚を鍛えるのには(基本的には)役立ちません。
目的に合わせて種目を選択する必要があることを示しています。
「プログラムは対象となる人に合わせたものでなければならない」という原則です。
周知のとおり、人間にはそれぞれの個性があります。ある人に効果があった方法でも、他の人に同様に効果があるとは限りません。
例えば、初心者に上級者用プログラムを適用しても、効果が出るどころかけがをする可能性も高くなるのです。
まず、トレーニングで使う負荷(重りの重さ、抵抗の強さ)を決めるのに、多くの場合対象となる人の最大筋力を求めて、それを基準にします。
最大筋力とは、
「意識的に発揮できる筋力の最大値」
を示します。これは、バーベルやダンベルなどを扱える最大重量から推定するのが一般的です。
次に、この最大筋力の何%で運動を行うかを決めます。現在までにいろいろな研究者が目安となる強度を設定していますが、まずプログラムの導入直後は強度以前に「フォームをしっかり学習すること」が先決です。
したがって、第一段階は「フォームを正確に行える重さ(抵抗)」を選ぶことからはじめましょう。
フォームが固まって、本格的にトレーニングができるようになってきたら、次は目的に合わせた負荷を設定する必要があります。
目的別トレーニング負荷の目安
トレーニングの目的 | 負荷(抵抗・重量) |
---|---|
筋持久力UP | 50~59% |
筋肥大 | 60~85% |
筋力UP | 86~100% |
上記は「絶対にコレが正しい」というものではなく一般論です。
しかし、まだ運動を初めて間もない方が最大筋力の測定にチャレンジすることは決して好ましいことではありません。このような場合は直接最大筋力を測定するのではなく、ある重りを何回持ち上げることができるか、という方法で最大筋力を推定することもできます。
持ち上げられる回数と最大筋力の目安(Repetition Maximum)
持ち上げられる回数 | 最大筋力に対する負荷の割合 |
---|---|
1回 | 100% |
3回 | 95% |
5回 | 90% |
8回 | 85% |
10回 | 80% |
13回 | 75% |
15回 | 70% |
上記もまた、あくまで目安です。
筋力を高め、筋肉を肥大させる目的で行う場合、一番勧められる重量は最大筋力の80~85%程度で8~10回行うことだといわれます。
筋力UPのためにはもっと重い負荷(90%以上)が必要だ、という説もありますが、このようなエクササイズは長期的に採用できません。それらはパワーリフティングの大会前などのピーキング(ピークに持っていくための調整)時期などに、一時的に使われる負荷なのです。
3. のとおり、負荷と回数は切っても切れない間柄にあるのがこの回数(reps)でしょう。
例えば、筋力を高め、筋肥大を狙う場合には、最大筋力の80~85%を使って、上がらなくなるまで持ち上げることだといわれますので、8~10回が最適な目標回数となるでしょう。
レジスタンス エクササイズはエアロビック エクササイズと比較した場合、筋にかかる負荷の最大値が大きくなるので、筋の破壊も大きくなることが考えられます。したがって、トレーニングとトレーニングの間には十分な回復期間を設定しなければなりません。
レジスタンス エクササイズの結果、筋線維が破壊され、細かい裂傷が起こり、エネルギー源を消耗します。筋は次に同じ負荷がかけられたときに同じダメージを負うことがないよう、以前のレベルよりも高いレベルにまで回復させるという性質があります。これを超回復と呼んでいます。この超回復の積み重ねがトレーニング効果を生むわけです。この超回復のリズムに合わせて休みをとるのが最も良いといえます。
超回復の概念図
上の図が表しているのは、筋力を示す曲線です。トレーニング開始時の筋力水準から1回のトレーニングで筋力が一旦失われることが分かります(疲労)。これが十分な休息により回復を見せますが、そのピークはトレーニング開始時の筋力水準を上回るのです。
理論上、1回のトレーニングを終えて次回のトレーニングを行うときは、超回復のピークを選ぶのが最も効率が高いといわれます。しかし、超回復にかかる時間は人により異なりますし、同じ人でも負荷や環境によって変わってくるはずです。したがって、最終的に各個人が経験によって知るしかありません。
一般的にレジスタンス エクササイズを開始した直後はだいたい1日おき、週3回程度のペースが良いとされています。
しかし、最大筋力の80%以上の重量を使用するとなると、筋肉の破壊が大きくなり、より長い回復時間が必要になるでしょう。このような場合週1~2回が最適ということもあります。週2回の場合、重い負荷を用いる日と軽い負荷を用いる日に分けて計画すると良いでしょう。
上級者になると、十分に各部位を刺激して、また十分な回復時間をとるためにスプリット ルーティン(分割法)というシステムを採用することも多いのです。 これは、たとえば1日目は上半身、2日目は下半身というようにトレーニング部位を分けて、上半身を行う日は下半身を休める、というような考えかたになります。
レジスタンス エクササイズを継続すると次第に筋力が発達しますが、これは大きく2段階に分かれます。
まず、ごく初期の段階、開始後約1カ月の間は、運動に参加する筋線維の数の増加によって筋力が高まることが知られています。
ふだん、あまり筋肉を使っていないような人の場合、全力を出しているつもりでも、運動に参加している運動神経の数、およびその神経に支配される筋線維の数はあまり多くありません。
しかし、トレーニングを開始することによって、徐々に運動に参加する運動神経および筋線維の数が増えていき、筋線維そのものが太くなっていなくても筋力が増加することになるわけです。
次に、上記のような最適化がほぼ終了した次の段階で、筋肉の肥大による筋力の向上が見られるようになります。
筋肥大の効果を実感できるようになるまでにどれくらいかかるのでしょうか。人それぞれ効果の現れかたが異なるので一概にはいえませんが、だいたい1~3ヶ月で「変わったナ」という効果は得られるようです。すぐにやめてしまう人が多いのですが、まずは「3ヶ月」続けてみてください。
先にも述べた通り、トレーニング効果には可逆性があります。少しずつでもいいので、続けていかなければなりません。