アクア エクササイズというと、多くの場合狭い意味で「水中エアロビック ダンス」というとらえ方をされる場合が多いようです。
しかし、本来は、「水中で行うエクササイズ」であればすべてアクア エクササイズに含まれると考えられ、スイミングもアクアビクスも、水中ウォーキング(水中歩行)も、アクア エクササイズの一つの形態であるととらえることができます。
これらはあくまで中原の解釈であり、ICOではアクア エクササイズという言葉を広い意味で使用しています。
アクア エクササイズは
「エアロビック エクササイズ(有酸素運動)」
および
「アネロビック エクササイズ(無酸素運動)」
の両方の側面を持っています。
「エアロビック エクササイズ」というのは、酸素を使いながらエネルギーを消費する、ねばりづよさ(持久力)を高める運動のこと。
逆に、「アネロビック エクササイズ」は、酸素を使わずにエネルギーを燃焼させるタイプの運動で、短時間で終了するのが特徴。ちから(筋力)を高める「レジスタンス エクササイズ」も「アネロビック エクササイズ」に含まれます。
アクア エクササイズの中でも参加者が多いスイミングの場合、ゆっくり長く時間をかけて泳げば「エアロビック エクササイズ」としての効果が高くなりますし、短時間に力を出し切ってしまうように泳げば「アネロビック エクササイズ」として優れたエクササイズになります。
アクア エクササイズについては、減量との関連もよくとりざたされています。
「エアロビック エクササイズ」としては水中を移動(推進)することによってかかる「抵抗」のため、多くの場合陸上よりも多くのエネルギーを消費することができるのですが、この意味で
「陸上運動より減量効果が大きい」
と結論付ける人も多くいるのです。しかし、
「体温の保温目的で体脂肪が減りにくくなる」
という説もあり、意見は分かれているのが現状です。
後者の意見は、『フィット or ファット(コバート ベイリー著・トレーニング ジャーナル編集部訳・石河 利寛監訳)』にかなりページが割かれています。ちょっと極端な書かれかたをしているんですけどね。
しかし日本では「保温目的で体脂肪が減りにくくなる」ということについて、多くのフィットネス クラブが水温を30°強と高く保っているせいか、この点が指摘されることは少ないですね。
「事故について」のコーナーでも紹介しますが、アリゾナ大学のハインリヒ博士のデータでは、ランナー、ボディビルダーに対し、スイマーの体脂肪率は有意に多いことを示しています。
「陸上運動より減量効果が大きい」という点については、私の指導経験からもかなり考えにくい状況です。
この点について、もと同僚だった経験の長いスイミング インストラクターに質問してみたことがありますが、「減量ということに限っていえば、スイミングは陸上運動に比べて不利だと感じますね」と述べていました。
もちろん、肥満度が高い人の場合は、皮下脂肪の厚さなどから、また状況が変わってくるのではないかと考えられますが。
次に、アネロビック エクササイズとして見た場合、アクア エクササイズはとても優れたレジスタンス エクササイズとなり得ます。
専門的には、水を押したり引いたりすることによって発生する抵抗は
「筋肉にアイソキネティック的効果をもたらす」
という言い方をします。これは「押したら押した分だけ、引いたら引いた分だけの抵抗がかかる」という、水という媒体の特殊な性質によるものです。
本来の意味でのアイソキネティックス(等速性収縮)は
「どんなに力を発揮してもその動きのスピードが一定になるもの」
のことを指しますので、人工的に動きを制限しなければ起こり得ません。その意味で、厳密には水中でのエクササイズはアイソキネティックスとは呼べないのかもしれませんが、現在では多くの指導者が
「水中動作=アイソキネティックス」
というとらえ方をしています。
それに対して陸上でのウエイト トレーニングなどの動作は負荷が一定になるもので(バーベルなどは使用中、その重さが変わりません)「アイソトニックス(等張性収縮)」と呼ばれ、区別されています。
上記のようにアクア エクササイズにはエアロビック エクササイズとアネロビック エクササイズの両方の側面の効果があります。
また水の「浮力」に注目した場合、以下のような効果も期待できます。
さらに、エクササイズでとる姿勢や水圧による効果も忘れてはいけません。
アクア エクササイズの効果はとても広い範囲に及ぶことがわかります。
96年のある日、私は健康運動指導士の資格を取るために、アクア エクササイズの講習会を受講しました。そのとき、アクア エクササイズを専門に研究されている講師が
「アクア エクササイズは陸上エクササイズの全ての要素を含んでいるし、安全性も高い。将来は全てのエクササイズが水中で行われるようになるといわれている」
という説明をされました。
私自身の感想として、それはありえないと思います。エクササイズの目的は人それぞれあります。特にハイレベルなスポーツのためにエクササイズを行おうとする人には水中エクササイズだけで必要な基礎体力を得られるとはとても考えられません。
現実問題として、人間は魚ではありません。遠い過去に陸上に上がり、重力に逆らいながら陸上生活に適応しているのです。また、陸上で行われるスポーツで、アイソキネティック的な筋肉の使い方をするケースは稀(ありえない?)といえます。このことだけを考えても水中エクササイズによるコンディショニングだけで一流選手を育てることは難しいといえますね。
また、水中につかることにより(あるいは顔をつけることにより)不整脈を誘発する人もいますし、血圧の変化が疾患に影響を与えることもあります。
このような観点から「将来全てのエクササイズが水中エクササイズになる」という表現は、専門分野に偏った見方であると私は考えています。
スポーツ医学書や健康関連の書籍をみると、
「水中運動には骨量・骨密度を高める効果はない」
という記述が多くみられます。
その根拠は、
「骨は重力を受けてこそ強くなる。宇宙空間に出て骨からカルシウムが抜ける(脱灰)のは、重力による刺激を失うからだ。水中では宇宙空間と同様、浮力により重力の刺激が相殺される。これでは骨を固くすることはできない」
というものです。
しかし、アリゾナ大学のハインリヒ博士らは、閉経前の17-38歳の女性の骨量について調査したところでは、異なる結果が出ています。
対象となった女性は、趣味としてスポーツを楽しんでいる方々(ボディビルダー11名、ランナー16名、スイマー13名、計40名)と、運動を行っていない女性18名でした。結果は以下の通りです。
すべての骨量においてボディビルダーが圧倒的であるのは間違いがないところですが、すべての数値において、非運動群はおろか、スイマーが陸上運動であるランナーを上回っているところは興味深いところです。
浮力によって重力の影響をあまり受けないはずのスイマーがなぜ?
これは私の推測ですが、重力がかからない分、水の抵抗を受けます。それは前述したとおりアイソキネティックという特殊な筋肉の収縮を起こすとされますが、これは極めてウエイト トレーニングで筋肉を鍛えるという行為と似ています。ウエイト トレーニングほどの重さをかけることはできなくても、水の抵抗が強い筋肉の収縮を生み、その筋肉に引っ張られる骨はかなり強い刺激を受けることになるでしょう。こう考えるとこの結果は全く不思議なことではないと思います。
逆に非運動群に対する、ランナーの骨量の少なさが気になります。大腿骨の骨量は非運動群とランナーで同等、橈骨はむしろ少なめでした。この結果は腰椎以外、ランニングが骨量増加にとってさして有効ではないことを示しているといえます。
ランナーの場合、やはり長距離を走るために体重を保たなければならないことから、食事制限を行っている人が多いのではないかという点を考慮しなければならないかもしれません。ここで対象になったのは趣味程度の女性ですが、もう少し本格的にランニングをしている方はさらに骨量が少ない可能性もあるでしょう。
このような食事制限、激しいトレーニングで体脂肪率(体重に占める脂肪の割合)が低下すると、ホルモン バランスにいろいろな影響が出てきます。一般的には体脂肪率が15%前後を割り込むと
「生理が止まる」
確率が高くなります。このような状況が長く続くと「閉経後の女性」と同じような状態におかれることになり、骨からカルシウムが抜けやすくなると考えられます。
健康のためにランニングを行う場合には、極端に体脂肪率を落とすことは好ましくないといえるでしょう。
ちなみに先の実験では、それぞれの体脂肪率(%)は非運動群で27%、スイマーで23%、ランナー19%、ボディビルダー20%でした。
健康のために適当な頻度で行うランニングであれば、骨への刺激も適度となり、逆に骨を固くすることができるはずです。実際、そういう実験結果も多く存在します。
話がそれましたね。アクア エクササイズに話題を戻しますが、もちろん、上記の実験結果が絶対というわけでもなく、やはり「水泳選手のほうが骨量が少ない」、というデータも存在します。ですが、水に入っている時間(重力の影響を受けない時間)も考慮しなければならないでしょう。
私は「アクア エクササイズは骨密度を高めるのに(骨を固くするのに)効果がないとはいえない」と私は考えています。
よく、
「水中で行うエクササイズはもっとも安全な種目で、高齢者の運動に向いている」
という話を耳にします。現実に、運動療法処方(運動療法の指針として医師が発行するもの)の題材としてスイミングや水中歩行はよく取り入れられています。
しかし、それは本当なのでしょうか? 確かに「スポーツ傷害を起こしにくい」という観点からはそれは正しいといえます。
フィットネス クラブで行われる陸上運動の代表的な運動といえば、「エアロビック ダンス」と「ウエイト トレーニング(重量を用いたレジスタンス エクササイズ)」ですが、前者は過剰に行うことで下肢の障害を起こしやすい運動ですし、後者はちょっとフォームを誤ればすぐにあちこちの関節が痛くなります。しかも、両方とも結構治りにくい頑固な障害であったりします。
アクア エクササイズについては、何度も述べているとおり、水による「浮力」が重力を相殺するという点で、陸上運動のような障害は極めて起こしにくいという特徴があります。
ところが、スポーツ中の急死となると結果は大きく変わってきます。
少し古い資料になりますが、昭和40年-49年の報告によると(上野・田島1978)、スポーツ中の急死76例のうち、水泳中のものが41例(53.9%)で過半数を占めています。
水泳の次に急死が多かったのは陸上(走る)で6例でした。水泳による死亡事故がいかに圧倒的か分かります。
ただし、水泳中の死亡事故のうち38例は溺死でした。他は頸髄損傷1例、心筋炎1例、てんかん1例となっており、突然死そのものは多くないことが理解できます。
別の資料をみると、突然死そのものではランニングが圧倒的に多く、全体の約半数を占めるそうです。
スイミングの指導員は「人は15cmの深さの水たまりがあれば死ねる」ということを知っています。陸上では確保できる呼吸が水中ではままならないということがより大きな事故に対する発生率を高めているわけです。
単純に「アクア エクササイズは安全だから安心して採り入れられる」というのでは十分な安全確保はできないと思います。「十分に水の危険性を熟知してプログラムを実施することで安全性を高めることができる」と考えるべきでしょう。
この種目は現代のフィットネス クラブのプログラム提供の中でもっとも歴史が古いものです。
少なくとも現在のリーディング カンパニーに当たるクラブはその前身が「スイミング クラブ」でした。日本の現在のフィットネス クラブはここから始まっているともいえます。
少なくともスイミングについては、日本ではスイミング クラブでも、小学校~中学校でも積極的に教えられています。前者では「選手を育てる」ことももちろん大きな目標だと考えられますが、なにより「水難事故から自身を守る」という手段としてより価値が高いのではないでしょうか。
スイミングというエクササイズは、以下のような効果が考えられます。
詳細にみた場合には、ほかにもさまざまな効果があることが考えられます。
スイミングについては専門スタッフの協力を得て、詳細な情報を提供していきたいと考えています。
水中で行うエアロビック ダンスのことをこう呼びます。団体によってはアクアビクスという呼び方もあります。
陸上で行うエアロビック ダンスよりも下肢に対する負担が小さく、比較的高齢の方でも障害を発生させずに楽しむことができるという利点があります。
また、水の抵抗を利用してさまざまなプログラムが開発されているので、全身持久力を高めるだけでなく、幅広い目的で行うことが可能でしょう。
医師の協力のもと、妊婦がより安全にエクササイズを行うように工夫された「マタニティビクス」や、出産後の女性を対象にした「アフタービクス」なども開発されていますね。
詳しい情報についてはもう少し時間がかかりそうですが、専門スタッフの協力を得て作成していきたいと考えています。
水中で行うウォーキングです。どなたでも経験をなさったことがあると思いますが、水中を「歩行」によって移動することはとても大変なことです。これはカラダの広い面積に水の抵抗を受けるためですが、その分エクササイズの強度も相当になることが考えられます。
自然にゆっくり歩くようなプログラムからはじめると良いでしょう。
水流を利用して、よりスムースに水中ウォーキングができるように工夫されている施設もあります。
「水中ウォーキング」で足が届くプールを利用する方法を説明しましたが、ここでは足の届かないプールを利用する方法を説明します。
私が過去にアメリカで体験した方法は、上半身に救命胴衣のような浮きを着用し、深いプールで「短距離走」のフォームを行うというものでした。ほとんど前に進まないので、10m移動するのは大変な労作になります。
この方法はエクササイズより上級者向きといえるかもしれません。また、アメリカでは障害者のためのエクササイズとしても利用されています。
水中で行う球技には水球などがあります。陸上で行う球技をプールの中に持ち込んで行うのもいいでしょう。
ただし、運動中の接触事故には十分に注意を払う必要があります。
さらにゲーム性の強い球技は楽しみのあまり思わぬ傷害を招くことがあります。私自身もアメリカでいくつかのプログラムを体験しましたが、疲労度はかなり強いものでした(自分がエキサイトしすぎていたせいでしょうか?)。ご自身の健康管理には十分に注意をお払いください。