レクチャー ルーム
中原雄一( 21/10/20 Wed 22:43 更新)

ストレスと減量

減量のこう着状態

スポーツクラブで減量指導を行っていると、クラスに参加されている方の多くが途中に減量の「こう着状態」を迎えます。

このような頭打ちの状態も数日で解消する人から数カ月におよぶ人もいて、反応は人によりさまざまですね。

減量においては、それぞれの人が心に描いている(期待している)目標があると思いますが、このようなこう着状態が「期待」と「現実」の間にギャップを生み、少なからず「ストレス(ひずみ)」を発生させる原因になります。

このストレスは、こう着状態を長期化させ、よりストレスを増幅させるという悪循環を招いたり、それが高じて減量を断念させることになったりします。

場合によっては過食・嘔吐を繰り返すようになるケースが発生することはあなたもご存じのことでしょう。

▲ Top

 

ストレスとこう着状態・体重増加のメカニズム 

<<大脳新皮質・大脳旧皮質・視床下部の連携破綻>>

ストレスが発生することによって、やせる人もふとる人もいますが、減量中のストレスの場合、多くは「ふとる」方向に働くことが多いようですね。このような状態は、どのようなメカニズムによって引き起こされるのでしょうか?

もともと、動物の体重は

「ほぼ遺伝的に規定されている(セットポイント)」

といわれており、それを保つべく脳の「視床下部」の食欲中枢である

満腹中枢」「摂食中枢

が食欲をコントロールしているといわれます。そのメカニズムはとても複雑ですが、簡単にいえば、

「食事をある程度食べると満腹中枢が食欲にストップをかけ、食事をってある程度の時間が経過すると摂食中枢が食欲を増進する」

ということになります。

しかし、人間の場合の食欲のコントロールはもっと複雑です。それは人間が

「発達した『大脳新皮質』の影響を多分に受ける」

からです。

たとえば、すでに満腹中枢が「これ以上食べる必要はない」という信号を出していても、デザートが出されると「このケーキはおいしそう」といって食べてしまうのも、この大脳の影響あるといえるでしょう。「別腹」なんてことばもありますが、食欲中枢によるコントロールと、大脳新皮質による影響の切りわけをうまく表現しているような気がします。

もし、「大脳新皮質」と「大脳旧皮質」、および「視床下部」の正しいバランスが保たれているなら、適正な体重を保てるはずです。しかし、これが破綻をきたすことで、体重に関する問題が起こることになります。

「好きなだけ」「満足のいくだけ」食べるとされるブックスダイエットでは、

「『食べてはいけない』『運動しなければいけない』というストレスは脳疲労を生み、大脳新皮質・大脳旧皮質・視床下部の三者の関係に破綻を来して、食欲に関する異常を招く」

と主張しています。私もその考えかたには共感できます。

 

<<ストレスホルモンによる食欲増進>>

私たちが外部・内部からストレッサー(ストレスを引き起こす刺激)を受けると、私たちの体にはストレスが発生します。

このストレスは、私たちのからだをコントロールしてくれる

「自律神経系・内分泌系」

に大きな影響をおよぼします。

絶食やそれに伴うストレスは副腎から分泌される「コルチゾール」の量を高めますが、このホルモンは視床下部に作用して食欲を増す作用があるとされます。ストレスからドカ食いをしてしまう人は、この作用が強く出ているのかも知れませんね。

またコルチゾールは末梢での脂肪蓄積に関与している可能性もあるようです。

 

<<ストレスをコントロールすること>>

以上のように、ストレスをためることは減量にとってはあまり好ましくない状態であると考えられます。

私の友人のボディビルダーは試合のために毎年減量していますが、

「ストレスは最大の敵だ」

と主張していました。

その彼のストレス解消および停滞の乗り切りかたは、非常に参考になりました。彼によると、体重が思うようにコントロールできなくなったら、

「思い切って好きなものを食べる」

のだそうです。そのかわり、

「2-3日は体重計に乗らないようにする」

とのことです。

「好きなものを食べる」ということも、「その後体重が一時的に増えるのが分かっているから体重計に乗らない」というのも、ストレスを発散するためには極めて有効な方法といえるでしょう。

▲ Top

 

こころのコントロール

私たちの身体面の能力をしめすことばとして

「体力」

というものがありますが、同時に心理的な能力を示す概念も存在します。いろいろな言葉がありますが、私は「体力」に対して分かりやすく

「心力」

ということばで表現することにします。

体力の発揮にはエネルギーの発生が伴いますが、心力にもエネルギーの概念を当てはめると分かりやすくなります。ここでは仮に心のエネルギーを「心的エネルギー」と表現します。

この心的エネルギーには、量と方向があります。もし、大量の心的エネルギーが正しい方向へ、適切な速度で向かうとおそらく

「極めて強いやる気」

につながるでしょう。

しかし、これがストレスによって、一転して方向転換されてしまうと、大量の心的エネルギーが

「極めて強い自己嫌悪」

の方向へ暴走してしまうことになり、最悪の結果となる可能性があります(心的エネルギーが大きいため、無気力というものとは異なります)。

最もいい結果を期待するためには、

「心的エネルギーのそれぞれの要素をバランスよく調整して、コントロール可能な量、方向を保つ

必要があるはずです。

心的エネルギーの量を適切にコントロールするためには、「適切な目標」を設定することが大切です。例えば、BMI法(女性=身長(m)×身長(m)×21、男性=身長(m)×身長(m)×22)などで適切な体重を求めて、週500g程度までの減量目標を設定し、段階的に達成していくようにするのです。

また、心的な側面に「速度」という要素を加えて考えることも役立つでしょう。制限速度を超える速さでの意気込み=あせりは

「減量のための急激な環境の変化」

を生むことになります。期待と現実のギャップはストレスの大きな原因になりますので、一度に多くの努力を払わず、段階的に採用していくことが必要なのではないかと思います。

目的を正しく達成するためには、

「心的エネルギーの方向づけも正しく行うこと」

はとても重要です。途中、ストレスやネガティブな情報などが原因で方向がマイナスの方向に逆転することがあります。これを正すことは、

「心的エネルギーに方向修正をできるだけの余裕が残されていること」

で可能になるでしょう。

心理学的に分析すれば、上記の概念は必ずしも適切な解釈ではないかもしれません。しかし、減量指導を行ううえで便利なので、私自身は常に念頭においています。

▲ Top