1997年2月にオープンして以来、ICOではたくさんのお便り(E-mail)をいただいてまいりましたが、振り返ってみると「減量」に関するご質問が群を抜いて多かったように思います。
ICOの開設当初は、単純に体重を気にしている方がほとんどでした。ところが、最近では「体脂肪率」の変化についても気に止める方が確実に多くなってきています。
体脂肪率とは、「体重に占める脂肪の重量の割合」をパーセンテージで示したもの。肥満というのはこの体脂肪率の過剰ですので、この傾向は正しいといえるでしょう。おそらく、家庭用の体脂肪計が近年急速に普及したことも、「単なる体重のコントロールから体脂肪率のコントロールへ」意識を正すのに役立っているはずです。
ただ、体脂肪率に気を配るということは、方向性から見ると正しいのですが、この(一般的には)新しい基準に対して、逆に過剰な信頼を寄せている人も多いように感じます。
そこで今回は、今後の指標として「体脂肪率」を有効に利用していただくため、体脂肪率とその測定法の真実に迫ってみました。
再三、ICOの減量関連のページで述べてきたことですが、過体重(体重の過剰)と肥満(脂肪の過剰)は区別する必要があります。
しかし、肥満の判定ということについては、今でも
「体重が重い状態=脂肪が多い」
という観念が働いているようです。これは専門家の各研究においてさえ、基本的に「体重の過剰(過体重)と肥満」を特別に区別してこなかったからでしょう。
現在でも使われている多くの基準が、身長と体重(および年齢、性別)から作られています。もしあなたが今までに減量を経験された方なら
身長 - 100 × 0.9
とか
BMI法
というような言葉をよくご存じなのではないでしょうか? しかし、実際のところ、これらの基準は(多少の相関があっても)体脂肪の多少を必ずしも表すものではないのです。これらはただ単に身長と体重から導き出される目安に過ぎません。
たとえば、身長170cm、体重80kgの2名がいたとします。
この2人はBMIでともに27.7となり、日本肥満学会の判定基準では「肥満体重」に分類されることになります。
ところが、両者の体脂肪率が10.0%、35.0%というように異なっている場合、このような判定は適切なのでしょうか? 脂肪の多い後者は当然肥満といえますが、前者は普通の人より脂肪が少なく、筋肉質であるのは明らかで、とうてい肥満とは呼べません。
現在、肥満の判定基準としてBMI法が定着してきてはいますが、本来の肥満の判定は体脂肪率で行うべきなのでしょう。
ただ、BMI法が確立された測定方法を持つ「身長」「体重」を基準にするのに対し、現在の体脂肪率を測定方法は基本的に「体組織の組成が常に一定」という仮定に基づいているなど、弱みがあるのも事実。
以下、さまざまな体脂肪測定法の特色とその問題点を紹介していくことにします。
これはヒトの体を直接のぞく方法(解剖)ですから、生体に対して適用することはできません。ですからここでは除外します。
生体に対して間接的に体の組成を推定する方法で、体密度法、体水分法(希釈法)、体内カリウム測定法、体内電気伝導度測定法、二重X線九州測定法、中性子賦活法、画像法、近赤外線法、皮脂厚法などがあります。
ここでは私たちに関係の深い方法をピックアップして紹介させていただくことにしましょう。
アルキメデスの原理に準拠したもので、陸上での体重と水中での体重から体の密度を求める「水中体重測定法」を利用します。
体密度法は、現在家庭でも普及しているインピーダンス法や、古くから行われている皮脂厚法などの基準となっているものです。
水中に全身を沈めて体重を測定するこの方法には、相応の施設が必要になります。つまりプールと大量の水、水中体重計などです。
私は日本エアロビクスセンターでこの測定方法を体験しましたが、一般の人がこの方法で正確な体脂肪を求めるのは難しいのでは、というのが正直な感想でした。
肺の中に残った空気が浮力として働くため、意識的に大きく息を吐き出さなければならないのですが、その苦しいこと苦しいこと。
しかも苦労したわりには、息の吐き出し方が足りなかったようで、かなりの誤差が見こまれました。
このようなことから現在の数多くの測定法の基準ではあっても、適用できる人は限られているといえます。
現在、一般家庭に普及しているのがこの方法で、生体に微弱な電流を流してインピーダンス(抵抗)を測定します。
基本的に、手の甲と足の甲に電極を装着して、この両極間の電圧から抵抗を測定します。一般家庭に普及しているのはこの簡易型である、体重計一体型(両足の踵の間の電圧を測定)や両手で握るタイプ(両手のひらの間の電圧を測定)です。
このインピーダンス法については、測定された体脂肪率の信頼性についてまだまだ課題が残されるとされています。測定条件によってかなりのばらつきが出てしまうからです。
私の家内はボディビルダーですが、その減量中に業務用のインピーダンス測定器を利用していました。
そのときの経験では、体脂肪率が8%位になるまでは測定値が減量の様子を十分に反映していたように感じたのですが、それよりも減量が進んだとき、逆に測定値がどんどん上昇していったのです。塩分の制限などによる体水分の変化(減少)などが影響したのでしょう。
実際、ボディビルダーのような特殊な条件下ではなくても、運動、脱水(発汗)、飲食によって大きなばらつきが出ます。
詳しくはお使いの測定器の使用説明書をごらんになってください。ここでは、家庭用の測定器について、私なりの注意点を述べておきます。
現在、体脂肪率を測定する方法は、上記以外にもいろいろと存在しますので、いろいろと試された方もいらっしゃるかもしれませんが、その測定値のばらつきに首を傾げている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
たとえば、皮脂厚法で測定したときには「体脂肪は少なめ」と評価されたのに、インピーダンス法では「肥満」に判定されてしまったというようなケースもあるのでは。
私の場合、企業の体脂肪計導入に当たって1日に数種類の体脂肪測定を実施したことがあるのですが、「キャリパー2点法=1.5%」「キャリパー7点法=4.0%」「インピーダンス法(手+足)=7.0%」「水中体重測定法=8.2%」でした。
このことからも理解できる通り、現在の体脂肪率の測定結果を絶対的な基準にするのはかなり難しいでしょう。
しかし、何度測り直しても同じような値が出る測定器は、再現性が高いと評価できます。測定の条件を揃えて、様々な注意点を守りながら測定するのであれば、多少の誤差はあっても体脂肪率の変化を長期的に追っていくのに役立つのでは? もちろん、上記のようなボディビルダーのようなケースもありますから、他の測定法の結果を加味したり、体重やBMIなどを併せて評価するとよいと思います。
体脂肪率の測定方法はまだまだたくさんありますから、徐々にこのコーナーに追加して生きたいと思います。