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中原雄一( 21/10/20 Wed 22:43 更新)

遺伝と肥満

1994年、アメリカのロックフェラー大のグループがマウスに肥満の遺伝子があることをつきとめてから、最近にわかに遺伝子と肥満についてクロースアップされてきています。

ここでは遺伝因子に関することを紹介してみたいと思います。

 

1.遺伝と肥満

現在では、肥満の原因として環境因子と遺伝因子のどちらが強いか、ということについては、諸説あります。

つい最近までは、「先進国においては環境因子のほうが強い」とされてきましたが、1994年に肥満遺伝子が発見されてからは、「肥満は遺伝的に決定される」という考え方がとても強くなってきています。

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2.肥満遺伝子の発見

肥満遺伝子は1994年にアメリカ ロックフェラー大学のグループがマウスによって確認しました。

この遺伝子に異常があるマウスは、「レプチン」というホルモンが体内で作られないのだそうです。

レプチンというタンパク質は脂肪細胞から分泌され、脳の視床下部に作用します。その結果、食欲をコントロールしたりエネルギー代謝にかかわることが知られています。

レプチンが欠如すると、異常に食欲が昂進するうえ、エネルギーの消費が減ってしまうため、肥満してしまうことになります。

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3.ヒトと肥満遺伝子

イギリスのアデンブルックス病院のサダフ・ファルーキ博士の研究によると、「86kg、8歳」の女児と、「29kg、2歳」の男児(いとこ)について調べたところ、その両方に「レプチン」というタンパク質を作る遺伝子の一部に異常があり、このふたりについてはレプチンが欠如している可能性があると指摘されました。

このように、ヒトの肥満と肥満遺伝子が関係していることが証明されたことにより、将来肥満の治療に大きな進歩をもたらす可能性があります。

ただし、ヒトの肥満についてはこのようなケースはまれであると考えられています。なぜなら、肥満者の95%はレプチン欠乏ではなく、「高レプチン血症」を呈しているからです。これは「レプチン」があっても「キカナイ」という状況を示しています。

レプチンのようなホルモンが体内で作用するためには、その情報を受け取る「受容体」とその正常な作動が必要です。

高レプチン血症が発現しているということは、この受容体の感度が低い、あるいは受容体が正常に働かないなどの問題が発生していると考えられます。このような状態をレプチンが効かないということで「レプチン抵抗性」といいます。

高脂肪食、つまり、脂肪の含まれる割合の高い食事をとると、このレプチン抵抗性が高まることが知られています。高脂肪食は「カロリーが高いから」「DITが低いから(食事後の体温上昇反応)」という今まで知られてきた理由以外にも、肥満に関係が深いということがいえそうです。

ただ、遺伝学者による「遺伝が最も大きな肥満の要素ではないか」という提唱には、私は全面的には賛成できません。

彼らはよくピマ インディアンや日系人の例をあげます。伝統的な生活を送るピマ インディアンと、アメリカナイズされたピマ インディアンでは、同じ遺伝子構造を持ちながら、前者はスリムな体型を保ち、後者は肥満者が多いことを指摘しています。

たしかに、この調査は、遺伝子の問題による「肥満」の成立を明らかにしてはいますが、その発症をわけているのは、「生活環境」だということです。

仮に、遺伝してきな弱点を持っていても、ライフスタイルや環境がコントロールされれば、肥満せずにスリムな体型を保っているということも可能だとはいえないでしょうか?

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4.これからの肥満治療

レプチンの発見により、これからの肥満治療も大きく変化するかもしれません。すでに行われている臨床試験でも、レプチンを投与されたグループは偽薬を投与されたグループに対し有意な体重減少を見せたとされています。

このほかにもさまざまな抗肥満薬が開発中ですが、遺伝的に決定されているとされつつあるBMIや体重をこれらの薬でコントロールできる時代もいずれやってくるでしょう。

ただし、1990年代中頃-後半の最新研究データに基づいたものですので、もう少し時間がかかるものと思われます。

参考図書

『肥満遺伝子』蒲原聖可/講談社

 

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