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中原雄一( 21/10/20 Wed 22:43 更新)

減量のモデルケース

肥満の定義

ふとる・やせる」でも述べましたが、

「どれだけの運動をして、どれだけの食事制限をすれば、どれだけ体重が減るのか」

ということを推定するのは難しいものです。

ただし、目標のない減量というのはまず成功しません。

ここではエネルギー バランスに基づいた一つのごく一般的なモデルケースを挙げることにします。

今回、現状を

「好ましくない体脂肪率(体重)をほぼ一定に保ってしまっている状態」

であると仮定します。

ここから先、減量のシミュレーションを行っていきますが、無理がなく、続けやすいとされるレベルでのシミュレーションとなります。

実際、体重の減少には、脂肪の減少だけでなく、筋肉の減少(増加)や、消化管の中身の変化、体水分の変化などが影響します。ですから、最初にごそっと落ちて、後は少しずつ、というようなパターンも多く見られます。ここでのシミュレーションは「無駄な体脂肪」の減少をターゲットとしていることを念頭においてください。

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1日あたりの生活活動量を上げる

減量のためには、ご承知のとおり、摂取エネルギーが消費エネルギーを下回るようにしなければなりません。

そのためにとられる一つの方法が、

「1日当たりの生活活動量を上げる」

ことだといえるでしょう。

もし、極端な運動不足であれば、少しずつ動ける生活パターンを作っていくようにします。

まだ、生活の中にエクササイズ(運動)を取り入れていない場合には、初歩的なプログラムを組み込んでみましょう。エクササイズそのものによって消費するエネルギーと、エクササイズ後の代謝が高まった状態が続くこと、また筋肉の増加による代謝の増大などが、1日の総消費量を上げる結果になるでしょう。

また、積極的に動くような生活パターンを作り上げることも必要です。例えば、自転車通勤を徒歩に変えるなどの積極的な行動の積み重ねが1日の総消費量を高めることにつながります。

このモデルケースでは、上記のような行動変革の結果、1日当たりの消費エネルギー量を200~300kcal上げたとします。これはエアロビック ダンスだと1レッスン分に相当する消費量といえるでしょう。

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1日あたりにとるエネルギー量を抑える

摂取エネルギーを消費エネルギーより少なくするもう一つのパターンは、食物からとるエネルギーを少なくすることです。

エネルギーを多く含み食欲を増進する効果のある

「高脂肪食(脂肪が多い食べ物)」

を避けたり、習慣となっているジャンクフードの摂取などを制限することにより、現在よりエネルギー摂取量を減らすことが可能です。

このような方法で、1日当たりの摂取エネルギーを200~300kcal下げてみることにします。

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摂取エネルギーと消費エネルギーのバランス

このような方法で、以下のパターンが作られることになります。

摂取エネルギー - 消費エネルギー = -500kcal

ヒトのカラダはいつも全くこの状態に保つことはできませんが、1日平均がこの程度になると考え、単純計算してみます。

体脂肪1kgは約7,000kcalのエネルギーを持っているといわれます。ということは、 7,000 ÷ 500 = 14 ということになり、1kgの脂肪を落とすのに14日を要することになります。正しい減量を考えた場合、この値を上限としておいたほうがよいでしょう。

上記の値はあくまで脂肪の減少値であり、必ずしも等量の体重減少があるとは限らないのですが、ここでは、脂肪の減少値が体重に反映されるものとして、53kgの人が50kgに減量するための減量パターンのモデルを作ってみました。

上のグラフのように、エクササイズとダイエットを組み合わせたパターンが一番効率が高いことが分かります。

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注意点など

最後に、人の体重には実にさまざまな要素がからんでいます。このモデルケースはあくまでも目安となるプランの一つとしてとらえてみてください。

上にも書きましたが、特に体重が大きい人は、最初に大きく体重が減少することがあります。これは、

  1. 体脂肪が減少したことより、食事をコントロールし始めたことによる「ナトリウム(食塩の構成要素)」の摂取量低下により、体水分が少し減少したことによるもの。
  2. 同じく、食事のかさが減ったことにより、消化管内の食物の総量が少なくなり、体重の減少につながったもの。

といった影響を受けていると考えられます。そのほか、体重が軽くなるにしたがい、体重が減るペースが落ちるのは、同じ運動でも、体重が少なくなったことにより、消費するエネルギーの量が少なくてすむようになったことにも起因します。

減量をはじめると、多くのかたが途中で停滞期を迎えます。女性の場合は、生理前から体内水分の貯留などにより、体重が維持したり増加したりする傾向があります。

停滞期の原因としては、

  1. 体の慣れによる、摂取エネルギー量と消費エネルギー量の釣り合い。
  2. ストレス時のホルモン分泌による、体水分の増加。
  3. ストレス時のホルモン分泌による、食欲の増加。
  4. 生理前-生理中の体水分の増加。
  5. その他の理由

などが考えられます。 特に、極端に強い運動を行い、急激な減量を試みた場合、あるいは急激に食事を減らしたような場合には、当初の大きな体重の変化に加え、その後の長い停滞が見られるケースが多いようです。過酷な状況に体が適応し、エネルギーを上手に使えなくなってしまうからです。

これらはただでさえつらい減量の方法であり、停滞時のストレスもかなり大きいものです。停滞時のストレスが悪循環につながることは上記の理由からもお分かりになるでしょう。

以前、朝食と昼食をVLCD(Very Low Calorie Diet)用の粉末食とし、夕食は少量の食事をとる、という減量を行っている方に指導をさせていただいたことがあります。このかたは最初の1週間で2kg程度落ち、それから3週間も体重が変わりませんでした。

そこで、朝食および昼食のどちらかを通常食に変えていただき、ごはんを多めにとっていただくようにお願いしました。すると、次の2週間で2-3kgの減量に成功しました。エネルギー摂取量が増えているのにこれはなぜなのでしょう? おそらく、

  1. エネルギーの補給により効率よく運動でエネルギーが燃やせるようになった
  2. 低いエネルギーに適応していた体の代謝量が少し高まった。特に、食事後に発生するDIT(食餌誘発性体熱産生増大反応)が高まったと考えられる。
  3. 食事に対するストレスが減少し、停滞期の要因がいくつか解決した
  4. 満足な食事とエネルギーが満たされたことによる快適な運動が(自律神経などへの)刺激になり、さらに代謝量の増加に影響した

というような理由なのだと思います。 減量においては、適正なモチベーション(動機づけ)、目的、目安を持って望むことです。

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