レクチャー ルーム
中原雄一( 21/10/20 Wed 22:43 更新)

運動の健康に対する効果

はじめに

  • 「スポーツは(運動は)カラダに悪い」とする説があります。アンチテーゼとしての「スポーツがカラダに悪い」という意見があるなら、その反対の意見もあるはずです。
  • 運動療法を研究する科学者たちは運動に「健康の維持・増進」の効果があることを認めながら、それを採用したことに伴う「障害」「事故」「突然死」の可能性を最小限に抑えることを提案しています。運動療法に関する彼らのの論文や著書を見てみると、半分以上がそれらの問題点について割かれることが多いことからもそれが分かります。
  • 運動を行うことについて「そんな危険を冒してまで行う必要があるのか」ととるのか、「運動の危険性に注意を払いながら、適度な運動を行って身体の調子を保つほうがよい」ととるのか。それは視点の違いであり、どちらが正しく、どちらが間違っているのか、というものではないでしょう。私の意識は後者に近いと思います。だからこそ、ICOがあるのですが。

運動は寿命を伸ばす?

  • まずは下のグラフを見てみましょう。

  • 上のグラフは、1日の歩数と心電図の関係を表したものです。このグラフを見る限り、1日当たりの運動量(歩行数)が多くなるほど、心電図異常をみせる人が少なくなり、正常範囲の人が多くなっていることが分かります。12,500歩以上歩くグループには心電図異常者は皆無だったそうです。
  • もう一つ、運動量と相対的死亡率を表したパフェンバーガーの有名なデータがありますので、紹介しておきます。

  • このグラフでも運動量が最も少ないグループは死亡率が最も高く、運動量が多くなるほど死亡率が低くなる傾向を見せています。
  • しかし、このグラフが明らかにしているのは、運動量が極端に多くなると死亡率が再び高まる傾向にあった、ということです。「スポーツはカラダに悪い」とする説は、このグラフによると、3500kcal/週以上のレベルで正当化されることが分かります。
  • このほかにも同様の傾向を示す資料をいくつも見かけましたが、ここでは比較的有名で出典も明らかなものを上げておきました。

運動は予備力を高める

  • 私は1986年より運動指導を行っていますが、非常に多くの方が「疲れなくなった」「生活が楽になった」とおっしゃってくださいました。これはまさしく運動によって得られた「予備力の増大」によるものです。
  • 予備力とは、その人が持っている体力のキャパシティから、安静時の運動量を取り除いた部分を示したものです。
  • 運動に要する力と予備力の関係を概念的にグラフにしてみました。

  • 例えば、安静時に必要な力が30とレベルにあったとします。もし、その人の体力のキャパシティが40しかなかった場合、予備力は10しかない、ということになります。
  • 例えば、階段を登るのに40という力が必要になった場合、その人のキャパシティと同等の力を要することになり、予備力をすべて使い切ってしまうことになります。これはその人にとっては限界の力を発揮することであり、危険極まりありません。
  • しかし、この人が適切な運動プログラムを行い、段階的に体力のキャパシティを高めることに成功した場合、この状況は変わることになります。
  • もし、キャパシティを100のレベルまで高めることに成功したら、階段を登るのに必要な力が40であるとすると、まだ60の部分を残せることになります。さらに強い負荷の刺激が加わるような状況になっても、余裕を残せるわけです。
  • 買い物をし、荷物を抱えるとき、普段10kgのダンベルを持ちなれている人は、荷物を軽く感じることでしょう。
  • 予備力をある程度持っていることは、健康的で活動的な生活を送るために重要です。日常生活ぎりぎりのキャパシティしかなく、予備力がほとんどないような状態では、運動以前に普通の生活で限界を感じ、時には事故を招くようなことにつながる可能性が高くなります。
  • 計画的な運動プログラムで予備力を徐々につけていくことで、その危険性はぐんと減るでしょう。
  • 生活も楽になり、活動的なものになるはずです。それこそ"Quality of Life"の高い、有意義な人生を送ることになるのではないでしょうか?

成人病疾患の予防

  • ここにおもしろいデータが一つあります。

  • このブレアのデータは運動が成人病(による死亡)を予防でき得ることを示しています (Blair SN, et al:JAMA, 262:2395, 1989)。
  • 運動の強さの低、中、強の度合いがどの程度であるのかがはっきりしていないのが残念ですが……(原典では、「トレッドミル=ランニング マシン運動時間によるフィットネス レベル」を1=低、2&3=中、4&5=高」としています)。
  • 心血管系疾患については運動療法のデータが数多く残っていますが、このデータに関してはガンに対する運動療法の効果も示唆しており、興味深いものです。

まとめ

  • ここでは、運動が「健康に効果がある」といういくつかのデータをピックアップし、その結果を解説しましたが、なぜそのような傾向が出るのか、という分析は行っていません。
  • このような傾向に対する解釈については莫大なものがありますので、このレクチャー ルーム、あるいはエアロビック エクササイズのページなどで個別に解説をしていってみたいと考えています。
  • また、運動のリスクや弱点についても述べていく予定です。

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